目が覚めたら知らない部屋にいた。
そして知らない服をきていた。
知らない飲み物を飲まされ、知らない言葉で話しかけられた。
そして知らない夢を見ていた。
もしかしたら私はそれらをすべて知っているかもしれなかった。
ただすべてが唐突すぎているのだ。
知らない、ということになっているすべてのことを受け入れることはできているようだ。ただ受け流すことができていない。
そしてそれらを知らない、ということだけは知っていた。
何かを知覚する、ということに対して処理する順番もよく覚えていない。
受け入れてから受け流すのか。それとも受け流してから受け入れるのか。そんなことさえも。
彼らはそんな私を見て、優しくするでも蔑むでもなく、淡々とした表情、手つきで私を扱った。
居心地は悪くなかったが、対等な存在ではなく扱われている、ということは分かった。
大抵彼らは私のいる部屋の外側から私を眺めていた。時折部屋の中に入ってくるものもあった。
見たことのないような器具を私に装着して、何か数値のようなものを収集しては、それに驚くものもいた。
とにかくよくわからない。ただ不快ではなかった。
次に目を覚ました時、彼らはいなくなっていた。
私がいる部屋と彼らが私を眺める部屋とを結ぶドアは開いていた。
身体は自由になっていた。それまで私には常にロープ状のものがくくりつけられていて、半径5m範囲でしか歩き回ることができなかったが、今は6m以上歩くことができる。
私はドアの方に歩いていき、恐る恐る部屋の向こう側を覗いた。
彼らはいた。
彼ら一人一人にロープ状のものがくくりつけられていた。
「あなたが王です」
その声に私は過敏に反応してしまった。
振り向くと小柄な男が立っていた。
「ここは今からあなたのものとなったのです。さあ仰せのままに。」
そう言われても私には何をどうすればいいのか分からなかった。
だって私が何もかも知らないということしか知っていないのだから。
だから私は手始めにその小柄な男の処刑を彼らに命じた。
■最初の一行ショートショートとは
最初の一行(一文)をお題にしてショートショートを書く試みのことです。
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