「つぶやきの欠片を集めたら、いったい何ができあがるんだろうね」と彼女は言った。
彼女はいつもそうやってまわりくどい言い方をする。
こないだだってそうだ。ナイアガラトライアングルのVOL.1と2の違いの説明の時は本当にひどかった。
「そうだなあ。欠片を集めるっていう行為を通じて、集めている人自身の中に、なにか信念のようなものが出来上がるんじゃないかな」
こう答える僕ももしかしたら悪いのかもしれない。
でも一昨日くらいに「つぶやきの欠片を捜しに行ったまま夫が帰らなくなって一年経ちました」ってスパムメールが届いたっけ。
彼女は私のメールボックスを覗き見でもしたのだろうか。本来ならそういうことを考えているはずなのだが、今回はそんなことはあまり気にならなかった。
そもそも僕のメールボックスは覗き見られたところで屁にもならないメールばかりだし(たまに前の彼女からあのDVD返してよね、というメールは来るけれど)、そんなことよりも僕はつぶやきの欠片を捜す冒険に想いを馳せていたからだ。
つぶやきの欠片を集めるということは本当はとても危険なことなのかもしれない。それらを集めるという意思が確認された時点で国家権力が、当局が動き出してその意思を捻り潰してしまうような、そんな危険な冒険。
つぶやきの欠片を集めてできたものはきっと国家を、世界情勢を揺るがすような代物なのだろうきっと。
そう考えるとあのスパムメールはもしかしたらスパムメールではないのかもしれない。スパムメールを装って、つぶやきの欠片を集める冒険者たちを試し、募っているメールなのかもしれない。
僕がその選ばれし者なのか?
そう思うといてもたってもいられなくなって僕はメールボックスをあさった。しかし一昨日届いていたはずのあのメールはどこにも見当たらなかった。早くも国家権力が動き出したのだろうか?
ドアが閉まる音で僕は我に返った。
彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
彼女がさっきまで座っていたソファーの上にはつぶやきの欠片が一つ、落ちていた。
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